国籍法の改正について
明日にでも衆議院を通過すると一部で騒がれている国籍法の改正について。この話、そんなに騒ぐほどのものではないのではなかろうか。その理由は後述するとして、まずは問題の全体像を大雑把ではあるが記しておきたい。
事の発端は、2008年6月4日の最高裁判決に遡る。この日、最高裁大法廷において、未婚の日本人父とフィリピン人母との間に生まれ、出生後に父から認知を受けた計10人の子供が日本国籍の確認を求めた2件の訴訟の判決が下った。最高裁は、「生後認知に加え、父母の結婚がなければ日本国籍が取得できないと定めた国籍法は憲法違反」として、日本国籍を認めた。詳細は産経新聞のサイトをご覧いただきたい。
このように、法律の全文もしくは一部を憲法違反であるとする最高裁の判断を法令違憲と呼ぶ。法令違憲の判断は、国会に対して法律の廃止もしくは改正を迫る事実上の強制力を持っている。そのため、国会では最高裁の判断に従って国籍法を改正する作業が行われてきた。某方面で騒がれているように、一部の国会議員が暗に法案を用意し、有耶無耶のうちに成立させてしまおうと画策しているような代物ではないのである。
さて、この改正案、どのようなものであるかというと、おおよそ以下の通りである。
(改正前)第三条 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
第三条の2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。
(改正後)第3条 父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。第二十条 第三条第一項の規定による届出をする場合において、虚偽の届出をした者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二条の例に従う。
その他施行期日に関する附則が存在するがここでは省略させてもらう。
国籍法改正に対して騒いでいる人たちは、認知のみで日本国籍の取得が可能である点を特に問題視しているようだ。また、罰則が1年以下の懲役又は20万円以下の罰金と比較的軽いことも槍玉に上がっている。中には20万円で国籍を売り渡す云々と言った記述も見受けられる。
問題は、この「認知」のプロセスがどのようなものであるか、であろう。もし仮に、紙切れ一枚の届け出を行うだけで、審査も何もなく外国人との間の非嫡出子の認知が認められるのであれば、国籍法改正に反対している人たちの懸念も理解できる。しかし、現実にはそう簡単に認知できるものではないし、法務省もそう簡単には日本国籍を与えることはないだろう。今までと同様に、様々な事実認定を経て、初めて非嫡出子の認知が認められる、と考えるのが妥当だ。
ここで、先の最高裁判決が参考になる。この判決では、両親が婚姻関係に無いことを理由として日本国籍を与えないことが違憲とされたのである。他に日本国籍を与えるに相応しく無いと思われる理由があれば、法務省はナンとでも理由をつけて申請を却下することができるはずなのである。国籍法改正に伴い、無関係の外国人が大量に流入してくるかのような思い込みは、全く持ってナンセンスであるといわざるを得ない。犯罪に利用される可能性を危惧する声もあるが、下手な申請は確実に却下する法務省を相手にビジネスとしては成り立たないだろう。そんなに騒ぐほどのものではないと考える理由はこんなところだ。


Comments (3)
国籍法狂想曲 | De la tierra vientosa...
11 月 19th, 2008 at 0:12:11
[...] この件、そんなに血眼になって反対するほどのものではないのではないかと思っていました。先日のエントリにも書いた通りですが、確証を得るためにネットでいろいろと調べてみました。 [...]
冥王星
11 月 24th, 2008 at 18:40:46
補足的に記述してきますが、今回の司法判断の価値は一般の方々には縁の無い世界と思われる
司法権の立法行為の正当性で裁判官の激論が交わされています。
冥王星にとっての本件の価値は、司法判断で議論された
”司法権には立法権限がないけど、違憲判断しちゃうと立法行為するようなもので、違憲判断が立法府の立法権の侵害になっちゃうよ”
という認識の是非論にあります。
実はこの激論は、日本の司法制度の問題点を先鋭化しているものです。
統治行為論・違憲審査など憲法判断を避け続ける司法のあり方について、よく議論された事例です。
是非に国籍法改正の法源という視点ではなく、司法の違憲審査の合憲性の問答に注目してほしいと思います。
cronoq
12 月 2nd, 2008 at 11:16:50
>冥王星さん
コメントありがとうございます。
違憲判決が内包する立法権の侵害という自己矛盾の問題ですね。
私個人としては、現行憲法の3権分立というのは、3つの機関が
完全に独立して存在するのではなく、相互に支配的に干渉しあう
ことによって各々の暴走を抑止するという観点に基づいて
設計された制度だと思うので、場合によっては今回のように
立法権を侵害することもやむを得ないと考えます。
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